フリーランスとして活動している方にリレー形式でエッセーを執筆いただいています。第8回はフリーランスとして活躍中ののびのびのんさんです。
結婚前は仕事が生きがいだった
「病気の早期発見に携わりたい」という思いから、臨床検査技師の国家資格を取得し、地元の総合病院に入職しました。
検査の奥深さに魅了された私は、入職当初から仕事中心の生活。日常業務では2年目から新人指導、5年目にもなると検査室の運営や人事にも関わるようになっていました。
週末は自身のスキルアップのために全国の学会や研修会へ。
他施設で勤務する臨床検査技師を対象に血液検査の解説をすることもありました。
この頃は、休日や深夜であっても職場から電話で問い合わせや呼び出しがあり、24時間365日気が抜けない日々だったのです。6年の間、こうした日々が続きました。
結婚して幸せ。だけど物足りなさを感じるように
結婚を機に先の総合病院を退職し、夫の地元へ引っ越しました。夫は「妻には家庭を守ってほしい」「早めに子供が欲しい」という考えの人なので、当初は専業主婦になる予定でした。
しかし、家でじっとしているのが性に合わない私。半日もあれば終わってしまう家事に暇を持て余し、働いていないことへの罪悪感を抱くようになりました。
そこで「家事全般は私が担うから」という約束で、臨床検査技師のパートに出ることにしました。
転職して衝撃を受けたのは、前の職場とのギャップです。前のハードワークな環境に比べ、新しい職場は穏やかな雰囲気。
世間では働き方改革が叫ばれていますが、いわゆる「イマドキの職場」だったのです。
しかし、このゆったりとした雰囲気が、私には物足りませんでした。そして「何か家にいてやれることはないか」と調べるようになりました。
そんな時に出会ったのがクラウドソーシングです。「これなら家事をおろそかにせず、もっと仕事ができる!」と嬉しかったのを覚えています。
低単価の案件が高単価の案件につながる
クラウドソーシングを始めた頃はアンケートに回答するタスクの仕事をしていました。しかし、1時間かけて回答したアンケートでも収入は数十円。
次第に割に合わないと感じるようになり、1ヶ月ほどしてプロジェクトに応募しました。その結果、案件を2ついただくことができました。
1つは妊活記事の執筆。記名記事でしたが、2000字で300円でした。
もう1つは自分の得意分野について記事を書くというもので、検査に関するものを書きました。こちらは無記名で2000字書いて600円でした。
私は不器用な人間なので、「低単価の案件ではそれなりの仕事を、高単価の案件では質の高い仕事を」というような使い分けができません。
どんな単価であっても、同じモチベーションとクオリティーで記事の執筆を行っています。
最初にいただいた仕事は比較的低単価の案件でしたが、この姿勢が別なクライアントさんの目に留まり、高単価の依頼をいただくきっかけになりました。
医療情報を身近に、そして正確に受け取れる世の中にしたい
私が臨床検査技師になるきっかけは「病気の早期発見に携わりたい」という思いからでしたが、実は現場経験を積むにつれ「本当の早期発見に携わっているのだろうか」と考えるようになりました。
医療の現場では、自覚症状の全くない人が健康診断を受けたおかげで病気の発見につながったり、Aという病気の患者さんが検査を受けたことで偶然Bの病気が見つかったりということが度々起こります。
このような経験を通して「病院に来た患者さんの病気を見つけるのはもちろん大切だけれど、一般の人に健康診断や医療機関への受診を促すことも、病気の早期発見には大切ではないか」と思うようになりました。
しかし残念ながら、医療機関に属している臨床検査技師がこのような働きかけをする機会はほとんどありません。
むしろこのような活動はフリーランスの方が適していると感じます。
また、インターネット上にある医療記事・妊活記事は、信憑性の高い記事もあれば、根拠が見られないものまで様々です。
私は医療者ですので、これらの情報の取捨選択にはそれほど抵抗がありませんが、おそらく医学に触れていない人にはこの取捨選択は難しいものになるでしょう。
実際、不妊治療を受けるのを渋り、インターネットや雑誌で調べた体質改善を行っていたカップルが、不妊治療を開始するときに「もっと早く受診すればよかった」と失った時間を悔むケースもあります。
さらに「医学が発達したから妊娠は後回しでいい」と言われてきた世代が、近年になって卵子の老化を知り、ショックを受けている現実もあります。
ここ数年で注目されている卵子や精子の老化ですが、私は10年以上前に大学の講義で耳にしたことがありました。
人生に関わるような知識は、医療者でもそうでない人でも、正確に、そして誰しも平等に与えられるべきものです。
「医療者だから情報が早い」というのは多少仕方ないにせよ、このように何年もギャップがある状況は改善していってほしいと願っています。
医療の話となると何となく抵抗感を抱く人もいますが、むしろそのような人にこそ正確な情報を伝え、医療がより身近になる必要があるのではないでしょうか。
私は医療資格を持つライターとして、医療と読者の橋渡しになるような存在でありたいと考えています。
パラレルワーカーからフリーランスヘ
現在、私は臨床検査技師とウェブライターの二足の草鞋を履いています。
フリーランスになるには実力がものをいう点、収入が不安定な点がネックだと私は感じています。
医療者としてどんなに思いが強くても、ライターや発信者としてのスキルが伴わなければ伝えることができません。
記事の先にいる読者のことを思いながら案件ひとつひとつに真摯に向き合い、スキルアップを目指している最中です。
将来的にフリーランスとして独り立ちし、多くの人に医療を身近に感じてもらえるような活動をするのが私の今の目標です。
(文:のびのびのん)